
みなさん、ご存じとは思いますが、母乳にはたくさんの利点が挙げられます。
赤ちゃんに必要な栄養や免疫が多く含まれている、子宮復古を助けてくれる、愛着形成につながる、母子間の絆ができる、経済的などたくさんのメリットがあります。今回は、そんな母乳・授乳についてのお話です。
赤ちゃんに合わせて変化していく母乳
母乳は赤ちゃんが産まれてから約1ヵ月間、赤ちゃんの成長に合わせて成分や色、質感などが変化していきます。
分娩~3日頃まで出る母乳を「初乳」、産後10日~2週間目あたりから「成乳」へと変化していきますが、この「初乳」から「成乳」への変化途中の母乳を「移行乳」と呼びます。

1.初乳
分娩から3日頃までに黄色、淡黄色の乳汁。
初乳には、免疫物質(IgAやトランスフェリン・リゾチーム等)が多く含まれています。
産まれたばかりの赤ちゃんは、感染症に対する抵抗力を持たないため、初乳から免疫物質をもらい、大きなリスクのある感染症から身を守ることができます。
また、塩分が含まれているので、胎児期に腸内に溜まっていた便(胎便)を、排泄するのを促してくれます。他にも、消化吸収しやすいタンパク質が多く含まれています。
産まれて1週間ほどは、力強く生きていくために、先ずは病気に罹らないよう免疫力をつけてこの世界に慣れていく期間になります。
2.移行乳
初乳の後、2週間ほどかけて、今度は赤ちゃんの成長発達に必要な栄養素・エネルギーをしっかり含んだ母乳に変わっていきます。移行乳の期間は初乳から生乳になる1ヵ月くらいの間に分泌され、脂質が増えるなど、赤ちゃんの成長に合わせて成分は変化していきます。
3.成乳
産後2週間以降の母乳は「成乳」といい、主に脂肪分・乳糖を多く含みます。
妊娠によって大きく伸びた子宮は、約8週間ほどかけて妊娠前の状態に戻ります。
お母さんの体が元に戻るのを助けてくれる
出産時に、子宮の壁から剥がれた胎盤の付着部から出血が起こりますが、子宮が正常に収縮し小さくなっていくことで、出血はおさまっていきます。
これを「子宮復古」といいますが、乳頭を吸引する刺激が加わると、射乳反射や子宮の収縮を起こす「オキシトシン」という物質が分泌されます。
しっかり赤ちゃんにおっぱいを吸わせることで、子宮収縮を促し悪露の排出ができ、お母さんの体が元に戻るのを助けてくれるのです。
愛着形成、母子間の絆ができる
直接母乳を与える授乳は、赤ちゃんの肌とお母さんの肌が触れ合うことで、互いの温もりを感じ、授乳中の我が子のしぐさや、表情・アイコンタクトなどから、愛着形成や絆が生まれることに繋がります。

経済的
母乳は、0円で手に入るため、経済的にも優しい点が魅力です。
また、赤ちゃんとの外出は、オムツや着替え、おしりふきなど、赤ちゃん用品はかさむものですが、母乳はミルクのようにお湯を用意する必要がないので、荷物がぐっと減ります。
そして、授乳は「はい、どうぞ」とすぐにあげられる手軽さもあります。
母乳にデメリットはないの?
母乳は素晴らしい栄養ですが、欠点もあります。ビタミンKが少ないのです。ビタミンKは簡単にいえば、止血に必要な物質です。
人間の体内では作れず食事から摂取するしかないので、赤ちゃんには必ず医療者が産後にビタミンK(K₂シロップ)を経口摂取させます。
また、母乳に含まれる遊離脂肪酸によって、黄疸が長引く(母乳性黄疸)ともいわれれることもありますが、基本的には心配する必要はありません。(黄疸の重症度にもよる)
そして、母乳は血液から作られるもの。
血中に入った成分は母乳を通して赤ちゃんに移行します。
体内に取り込む物には注意が必要で、食事以外でも、特殊な治療を受ける際は、母乳での授乳を一旦中止する場合もあります。
なので、服薬や治療など必要な際は、必ず授乳中であることを伝えましょう。
産後4ヵ月ほどは母乳を
時代の変化と共に、生活スタイルも随分変わってきました。
産院に入院中、個別対応が十分できず、授乳指導が完了しないまま早期に退院する現状はあります。
また、産後6か月で仕事復帰が迫っていたり、核家族での日々の忙しさからミルクを取り入れる機会も多くなったように感じます。
実家に里帰りしても、家族からの授乳指導を受けることは難しいです。
中には「預ける時のために、哺乳瓶に慣れておいてほしい」「夜は寝てほしいから」という理由で、ミルクを与えられている場面にも多く出会います。

母乳分泌がピークになるのは、4ヵ月頃。
それ以降は維持期となりますので、乳量が増えることは難しいでしょう。
産後2・3ヵ月ほどで母乳を十分に分泌させて、授乳のタイミング・抱っこの仕方・育児への自信もある程度確立させれば、特にお母さんは困ることはありません。
お母さんと赤ちゃんの健康を守る母乳
食事に関しては、自然食でなければ!あれもダメ!これもダメ!とはいいませんが、これから家族の健康を守っていく必要はあると思いますので、食事も「なるべく健康なもの」が良いと思います。
健康管理の練習に、お母さんが体に取り入れるものに気を遣って、ご自身も赤ちゃんも労わっていくのも大切ではないでしょうか。
また、ミルク栄養児と比べ、乳幼児突然死症候群の発生率が半分であるともいわれています。
赤ちゃんの状態確認、ご自身の管理のためにも
・なるべく3~4時間ごとの母乳での授乳
・退院後に助産師による十分な授乳指導を受けることをおすすめします。
産後、寝不足でクタクタになった時になると「育児って大変だな…。一人でやって孤独だし、辛い…。」という思いが押し寄せてきたりしますよね。
育児は、大人側が与えてばかりと思いがちですが、実は赤ちゃんから与えてもらっているものもたくさんあります。言葉が話せない赤ちゃんは、全身で関係を取ろうと努力しています。
赤ちゃんとの時間が、私たちもそうしながら大人になったこと、忘れてしまった大切なものを思い出させてくれることもあるのです。
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