完全に母乳だけで育てるのは難しいのでしょうか?

最初に申し上げておきますが、私自身、病院に勤務していた頃に「母乳育児をどうしても諦めなければならなかった方々」をたくさん見てきました。
ですから、母乳をやめなければならない辛さや、与えられない不甲斐なさ・心の痛みは、痛いほど分かっています。

そうした「母乳育児が難しい方」のために、粉ミルクはあります。
また液体ミルクも、災害時などで避難生活を余儀なくされ、不安や恐怖、そして多くの人と共に過ごす避難所生活の中で母乳が出にくくなったり、調乳ができない環境での不便さから導入されたものです。

母乳の代わりとなるミルクは、生死に関わる大切なもの。
必要な方には、もちろん欠かせない存在です。

ただ最近、「特別な理由がないのに、あえて混合栄養を選ぶ方」がとても多いように感じています。
そこで今回は、そのことについて少しお話ししたいと思います。

目次

よく聞くお母さんたちの声

当院にご相談くださる際、授乳状況をお聞きすると、このようなお話がよく出てきます。

  • 「いつでも預けられるように、哺乳瓶に慣れさせておいた方がいいと思って、母乳をあげたりミルクを飲ませたりしています。でも、もう少し母乳量を増やしたいです。」
  • 「夜は自分もしっかり寝たいので、夜中は赤ちゃんに起きてほしくありません。寝る前にミルクを飲ませています。」
  • 「完全母乳じゃなくていいです。母乳寄りの混合栄養で良いと考えていますが、母乳量を増やせますか?」
  • 「乳腺炎を起こしたくないので混合でいいのですが、もう少し母乳量が増えたらいいなと思っています。」


しかし同時に、次のようなお悩みも伺うことがあります。

  • 「哺乳瓶を嫌がって、ミルクを飲んでくれなくなって困っています」
  • 「夜中はぐっすり寝てくれますが、朝起きたらおっぱいがパンパンに張って痛いです」
  • 「おっぱいをあげた後、どれくらいミルクを足したらいいか分かりません」

なぜ、授乳をこんなに複雑にしてしまうのでしょうか?

別の事例では、里帰り中に家族から
「母乳足りてないんじゃない?」
「お腹空いてるみたいよ。ミルクあげなくていいの? 可哀想。」
「別に母乳にこだわる必要ないんじゃない?」
といった言葉を繰り返し言われたお母さんがいました。

母乳分泌量を増やす練習中だったその方は、
「おっぱいだけにこだわるのがいけない気がする」
「お腹を空かせているのに、出ないものを吸わせて可哀想。出せていない自分が情けない」
と自責の念を抱き、母乳を諦めてしまいました。

産後は、ほんの一言に心が大きく揺れ動く時期です。

人間の体には、本来「母乳を出す力」が備わっています

せっかく持っている機能を、活かしてみませんか?
完全母乳栄養では、なぜいけないのでしょうか?何がダメなのでしょうか?

赤ちゃんは、お腹が空けば泣きます。
言葉を話せないからこそ、泣いて自分の不快を伝える——それは生まれながらに備わった力です。

すべてが十分に満たされ、泣く必要のない環境など、ありえません。
不自由さがあるからこそ、赤ちゃんは必死に適応し、成長していきます。
それが本来の姿ではないでしょうか。

母乳量は、産後すぐに十分に出るわけではありません

お母さんがしっかりと栄養と水分をとり、赤ちゃんにたくさん吸ってもらうことで、少しずつ分泌が増えていきます。

産後3ヶ月頃までは、母乳量はぐんぐん伸びていきますが、4ヶ月目以降は一定になります。
この仕組みを、まず知っておいてください。

そして、授乳は永遠に続くわけではありません。
一番つらいのは、最初の2ヶ月。
子どもと過ごす中でのほんの数ヶ月——頑張ってみませんか?

「たかが授乳」ではありません

授乳という行為の中には、親の性格や癖、育った環境、生活のリズム、人との関わり方まで、たくさんのことが表れます。

「授乳や育児を楽にしたい」という考え方が、逆にお母さん自身を苦しめてしまっていませんか?

育児をしていると、孤独を感じたり「自分だけが大変」と思ってしまうこともあるでしょう。
「もう無理!」「きつい!」「嫌だ!」と感じることもあると思います。

でも、育児はどんなに頑張っても給料も表彰状もトロフィーもありません。
それでも、一人の人間の人格形成に関わる、とても尊い行為です。

初めてのことに奮闘するお母さんの姿は、本当に美しいと思います。
そして、妊娠・出産・母乳を出すという「命を育てる力」を体に備えている——それ自体が、素晴らしいことだと思いませんか?

ここ10年ほどで、「大変になりたくないから」と心配ばかりして、かえって難しくしてしまっているお母さんが増えているように感じます。

子どもを持ちたいと思った時から、「親になるんだ」という覚悟を持ちましょう。
分からないことは曖昧にせず、人任せにせず、しっかり学びましょう。

分からないなら、聞いてください。つらいときは、愚痴をこぼしても大丈夫。
私が聞きます。一緒に乗り越えていきましょう。

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